宵にかくして



……心地がいい、なんて、言われたことないよ。


小さい頃から声を誉めてもらうことは何度かあったけど、……そんなストレートな物言いをされるのは初めてで、どこかうれしい気持ち半分、やっぱり照れてしまう。


「あ、の……ちかい、です」

「、それが?」

「(それが?!)」
 


まったく離れてくれる気配がない。


パーソナルスペースが広そうなひとだと思っていたし、実際さっきまではどこか距離を取られていた気がするのに、いまは鼻先が触れそうな至近距離。


……宵宮さんの距離感はちぐはぐだ。


さっきだって、なぎ兄が宵宮さんのことを“潔癖"って言っていた、……って、そういえば……!



「よ、宵宮さん潔癖なんですよね……?わたし、お部屋まで入ってしまって、ごめんなさい……っ」



……というか、この距離感も相当ストレスなのでは? 


宵宮さんがあまりにも普通にふれてくるから、すっかり頭から抜け落ちていた。あわてて距離を取って軽く頭を下げれば、はあ、と微かなため息が落とされて、……やっぱり、嫌だったんだ。





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