さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~
「送ります。女性の一人歩きは危ないから」
「え?」

 意外な言葉が先生から返って来て、さらに驚いた。
 それって私を待っていたってこと?

「行きますよ」

 私の返事を聞く前に先生が歩き出す。しかも私のマンションがある方向だ。
 小走りで先生の隣に並び、質問する。

「私のマンションご存知なんですか?」

 先生が口の端を少しだけ上げクスリと笑う。
 普段の仏頂面とは違って、優しそう。先生ってこんな優しい表情もするんだ。

「知ってますよ。同じ所に住んでますから」

 信じられない言葉を耳にして、思わず立ち止まる。

「ちょっと待って下さい! 同じ所ってどういうことですか?」
「あのマンションですよね?」

 通りの先に見える10階建ての白いマンションを先生が指した。
 間違いなく私の新居だ。

「私が引っ越して来たの気づいていたんですか?」
「隣ですからね。気づいたのは最近ですが」

 えー! 隣!!
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