さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~
「嘘でしょ?」
「そんなつまらないことで嘘をつく必要がありますか?」
つまらないと言われて、ぐっと言葉に詰まる。
そう言えば、引っ越しのご挨拶に行った時、同じ階に住む女性が306号室はお医者さんだって教えてくれた。それってやっぱり――。
「もしかして306号室ですか?」
「そうです」
「ご挨拶が遅れて失礼しました。305号室に引っ越して来た一条です」
引っ越しの挨拶をずっとしたいと思っていたから、そんな言葉が自然と出た。
すると、突然、ぷっという低い声が頭上でしたかと思うと、先生が声を出して笑い始める。
目尻を下げて楽しそうに笑う先生を初めて見た。なんかレアなものを見た気がして嬉しい。
「それ今言う?」
「だってずっとご挨拶したいと思っていたんですよ。ご挨拶の品のタオルを持って何度か訪ねたんですから。でも、お留守で」
「一条さんが引っ越して来た頃は留守にしていたんです。気づいたら隣に人が住んでいて、それが一条さんだとわかったのは三日前です」
「そうだったんですか」
「歩きましょう」
先生に促されて、再び歩き出す。
何だか先生の隣を歩いているのが不思議だ。
会社では関わりがある方だけど、会社を出た後の森沢先生のことはよく知らない。
今夜の先生は前髪を下ろしているんだなって、街灯に照らされた横顔を見て思う。Tシャツ姿も初めて見た。会社ではいつもカッチリとしたワイシャツとスラックス姿だからカジュアルな服装は珍しい。
「そんなつまらないことで嘘をつく必要がありますか?」
つまらないと言われて、ぐっと言葉に詰まる。
そう言えば、引っ越しのご挨拶に行った時、同じ階に住む女性が306号室はお医者さんだって教えてくれた。それってやっぱり――。
「もしかして306号室ですか?」
「そうです」
「ご挨拶が遅れて失礼しました。305号室に引っ越して来た一条です」
引っ越しの挨拶をずっとしたいと思っていたから、そんな言葉が自然と出た。
すると、突然、ぷっという低い声が頭上でしたかと思うと、先生が声を出して笑い始める。
目尻を下げて楽しそうに笑う先生を初めて見た。なんかレアなものを見た気がして嬉しい。
「それ今言う?」
「だってずっとご挨拶したいと思っていたんですよ。ご挨拶の品のタオルを持って何度か訪ねたんですから。でも、お留守で」
「一条さんが引っ越して来た頃は留守にしていたんです。気づいたら隣に人が住んでいて、それが一条さんだとわかったのは三日前です」
「そうだったんですか」
「歩きましょう」
先生に促されて、再び歩き出す。
何だか先生の隣を歩いているのが不思議だ。
会社では関わりがある方だけど、会社を出た後の森沢先生のことはよく知らない。
今夜の先生は前髪を下ろしているんだなって、街灯に照らされた横顔を見て思う。Tシャツ姿も初めて見た。会社ではいつもカッチリとしたワイシャツとスラックス姿だからカジュアルな服装は珍しい。