さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~
「制服のままなんですね」

 先生に指摘され、余裕のない生活を言い当てられたようで恥ずかしくなる。

「すみません。睡眠時間を確保する為に一秒でも早く帰ろうと思ったら、着替えている時間がもったいなくて。どうせ帰りは人と会うことないですし」
「いつもこんなに遅い時間?」
「そうですけど」

 先生がため息をつく。

「会社がある日もあのファミレスで働いているんですか?」
「ええ」
「だから寝不足になるんです。一条さんは無理をし過ぎだ」
「そんなこと言われても、無理しないと家賃が払えないんで」

 マンション前で先生が立ち止まり、真っすぐ私を見る。

「なぜ家賃が払えないような所に? 一条さんはそんな無茶をする人じゃないと思いましたが」
「それはいろいろ事情がありまして……」
「その事情って彼氏ですか?」

 向かい合った先生が心配そうに眉を寄せる。

「先生には関係のないことですから。あの、おやすみなさい」

 これ以上、先生に答えたくなくて、オートロックの自動ドアをくぐり、エレベーター脇の階段を駆け上がった。先生に心配されたくなかった。だけど、その日からファミレスの帰りは先生と遭遇した。仕事を終えてファミレスから出て来るといつも先生はコンビニから出て来た。

「牛乳が切れたんです」
「食パンがなかったので」
「急にカップラーメンが食べたくなって」

 そんな理由を口にしながら、先生はコンビニのレジ袋を持ってマンションまで私と一緒に歩いた。さすがに三日続くと不自然だ。
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