さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~

5

 一ヶ月後。

「綾乃、髪切ったんだ。素敵だよ」

 月曜日の朝、出社すると瞳子に言われた。
 背中まであった髪を肩の長さで切りそろえた。

「本当、一条さん、色も明るくなって素敵です!」

 久保さんにも褒められて照れくさい。
 黒髪も明るい栗色にしてみた。

「爽やかな緑色の服もいいじゃん! なんか綾乃、一皮剥けたって感じがする」
「まあ、いろいろと心境の変化があって」

 ふふっと微笑んだ。
 以前の私だったら、褒められても素直に喜べず、照れ隠しに俯いていただろう。でも今は、まっすぐに瞳子の目を見て笑うことができた。

 自席でメールの確認をすると、森沢先生からメールが来ていた。

【もし先約がなければ、今日のランチは一緒にどう?】

 メールを開いた瞬間、すぐに閉じた。同居を始めて一ヶ月。業務以外の連絡はスマホのメッセージアプリですることになっているのに、先生が業務用のメールを使ってきたのは初めてで、心臓が飛び出そうになった。久保さんに見られたら大変だ。

「一条さん、どうしたんですか?」

 案の定、久保さんに聞かれる。

「えーと、私、ちょっと行ってくる」

 先生に相談しようと思っていた作成中の報告書もあったので、ノートパソコンを持って席を立った。

「森沢先生の所?」

 瞳子に聞かれて、頷く。

「森沢先生の所なら、私も連れてってくださいよ」

 久保さんに言われるが、瞳子が久保さんを止める。

「森沢先生は久保さんみたいに浮ついた子が苦手なの。それより、仕事、仕事」

 瞳子に言われ、久保さんが渋々パソコンに向かった。
 ちょっと久保さんに申し訳なく思いながら、オフィスを後にした。
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