恋心はシェアできない
「やっぱり言ってなかったか。来週の土曜日だよ。金曜が部署の送別会って言ってたけど咲希ちゃん行くの?」

「その日、ちょうど企画の提出日なの……迷ったけど欠席にした」

「そうか」

私は俯くと鞄を持つ手に力を込めた。


(来週には碧生は会えなくなるんだ……)


こんなギクシャクとしたままお別れなんてしたくない。でも今更なんて話せばいいのか時間が経てば経つほどに分からなくなっているのも事実だ。

そのまま黙って数分歩けば、駅前の明かりが見えてくる。翔太郎くんがふいに歩みを止めた。


「……翔太郎くん?」

「こんなこと僕が言うことじゃないけど……ちゃんと二人は話した方がいい」

「気づいてた、んだ」

「二年も暮らしてるんだ。二人が出かけてから様子が違うことくらいすぐわかった。梓も心配してる」

「ごめんね……なんか……」

「いや、僕こそ何もできない上に、おせっかいだね」

翔太郎くんが眉を下げると眼鏡をクイっと押し当てる。

「……悪いのは私なの。でも上手く謝ることもできないし……本当にどうしようもなくて」

「……同じような事、碧生も言ってたよ」

「え?」

翔太郎くんが綺麗な二重を優しく細めると困ったような顔をしていた。


「僕が言えるのは、大事なことは言葉にしないと伝わらないから」

そう言ってから、翔太郎くんがわずかに頬を染める。

「って梓の受け売りなんてかっこ悪いな」

「ううん……そんなことない。言わなきゃ伝わらないもんね」

私の返事に翔太郎くんは少しホッとしたような表情を浮かべた。

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