恋心はシェアできない

恋心をシェアしたい

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翌日、碧生は予定通り大阪に旅立った。

そしてそのあと残った三人で相談して一ヶ月後にシェアハウスを解消した。新しく『タマコの家』に募集をすることも考えたが、碧生以外の人と一緒に住む気にはなれなかったのが一番大きい。

現在、私は駅近くのアパートでひとり暮らしをしており、梓と翔太郎くんは結婚を視野に入れて同棲を始めた。


(今日は金曜だし、残業なしで帰ろう)

私は十八時ピッタリになったのを確認するとパソコンをシャットダウンする。

その時、部長が私を呼んだ。

「綾川さん、ちょっといいかな」

「はい、なんでしょう?」

「さっきツナグ旅行さんから連絡を頂いて、綾川さんにまた企画依頼したいって」

「本当ですか!?」

「ああ、あとで資料送っておくから、週明けチェックしておいて」

「はい、有難うございます。ではお先に失礼致します」

私は部署の人たちにも挨拶をすると足取り軽く会社を飛び出した。

(やった……!)

(早く碧生に言いたいな)


あれはちょうど、碧生が異動して一ヶ月後のことだった。

なんと私の企画が初めて採用されたのだ。それを部長から聞かされたときのの興奮と達成感は忘れらない。自分を初めて褒めてあげたいと思った瞬間だった。

そしてずっとコンプレックスだった自信のない自分に自信を持てたかと言えば、正直に言うと実感はない。でも一つだけ自信を持って言えるのは前より自分が好きになった。



(次はどんな広告にしようかな)

現在、駅の構内に私が手がけたツナグ旅行の広告が大々的に掲示されている。

その効果は抜群で神狐市には前年度の十倍の観光客が訪れているとのことで、先日のテレビの旅番組ではうどん処“縁”のご夫婦がインタビューに答えているのを目にした時は本当に嬉しかった。

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