恋心はシェアできない
碧生は普段は気さくで柔和な雰囲気だが、仕事においては自分に厳しく非常にストイックだ。別人のように真剣な表情で誠実に的確に業務をこなし、いまや我が社の期待のエースと呼ばれている。
そんな彼の二面性に触れ、私が特別な想いを抱くようになったのは一年ほど前からだ。
「咲希、飯は?」
「うーん、まだいいかな」
私がパソコンに再び視線を落とせば、台所から碧生がこちらにやってくる。
「てか、帰宅してまで仕事?」
「う、ん。今度出す企画書。でもなかなかうまくいかなくて」
「見せてよ」
「え、恥ずかしいから」
「いいじゃん」
碧生の大きな手が伸びてきて私の手からするりとマウスを奪う。そして骨張った手でマウスを操作しながら真剣な表情で企画書に目を通していく。
画面から視線を外さずに、シャツのボタンを緩める姿と碧生の髪につけているワックスの甘い匂いに鼓動は自然と高鳴っていく。
私にとって碧生は陽キャでムードメーカーのただの同期。『タマコの家』に住み始めたときは確かにそうだった。それ以上の感情を自分が抱くとは想像もしていなかった。
恋というものは突然やってきて一度心に棲みつけばなかなか出て行ってくれない厄介な感情だと思う。
(好きになるならシェアハウスなんてしなかったのに……)
このシェアハウスを提案したのは碧生だった。なんでも碧生の担当の得意先の人がタマコさんと知り合いらしく、物件を紹介してくれたらしい。天然人たらし様のネットワークはすごい。
そんな彼の二面性に触れ、私が特別な想いを抱くようになったのは一年ほど前からだ。
「咲希、飯は?」
「うーん、まだいいかな」
私がパソコンに再び視線を落とせば、台所から碧生がこちらにやってくる。
「てか、帰宅してまで仕事?」
「う、ん。今度出す企画書。でもなかなかうまくいかなくて」
「見せてよ」
「え、恥ずかしいから」
「いいじゃん」
碧生の大きな手が伸びてきて私の手からするりとマウスを奪う。そして骨張った手でマウスを操作しながら真剣な表情で企画書に目を通していく。
画面から視線を外さずに、シャツのボタンを緩める姿と碧生の髪につけているワックスの甘い匂いに鼓動は自然と高鳴っていく。
私にとって碧生は陽キャでムードメーカーのただの同期。『タマコの家』に住み始めたときは確かにそうだった。それ以上の感情を自分が抱くとは想像もしていなかった。
恋というものは突然やってきて一度心に棲みつけばなかなか出て行ってくれない厄介な感情だと思う。
(好きになるならシェアハウスなんてしなかったのに……)
このシェアハウスを提案したのは碧生だった。なんでも碧生の担当の得意先の人がタマコさんと知り合いらしく、物件を紹介してくれたらしい。天然人たらし様のネットワークはすごい。