勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

3.憧れの騎士様

「いらっしゃいませ! 焼き立てのパンはいかがですか?」

 パン屋が一番混み合うのはお昼時だ。この時間帯はわたしも、店番をやっている。会計をするレジの前に行列ができている。

「やあ、クリスタ! いつものある?」
 訊ねてきたのは、エイベルだった。お決まりのチョココルネを一つレジに置く。彼の昼食はいつもこれだ。

「あるよ。ちょっと待ってね」
 取り出したのは、パンの耳だった。

 エイベルは下に弟妹が多いから融通してやってあげて、とおばさんから言われている。余ったパンなんかもこっそりあげているのだ。

「いつもお疲れ様。頑張ってね」
 手早くコルネとパンの耳を袋に入れて渡す。

「ありがと、クリスタ! またな」

 それをさっと掴んでエイベルはまた職場に戻っていく。確か年は十六歳だったと思う。わたしより年下なのに、エイベルは家を助けるために左官の親方のところで働いている。本当にすごいなと思う。

 そんなことを考えていたら、すらりとした長身が目の前に立った。

「こんにちは、アルフレッド様」

 いつものように、くせのない黒髪を一つに束ねている。切れ長の目は、晴れた日の空のような澄んだ青。

 何度見てもこんなかっこいい人が、なぜうちの店にいるのだろうと疑問に思う。王都騎士団の黒と赤を基調とした制服は、パン屋には似つかわしくないと思う。

「クリスタニア嬢」

 そして、この仰々しい呼び方も。エイベルよりも低いその声でそんな風に呼ばれたら、まるで自分がお姫様か何かになったような気がしてくる。

 実際のわたしは、絶賛落ちこぼれ予定の魔女でしかないけれど。

「今日のサンドイッチは、なんだろうか」
「今日のはですね、えっと」

 サンドイッチはおばさんが成型の合間に作っているので日替わりだ。当店の人気商品でもある。なお、そうやって出たパンの耳が、さっきのエイベルへのおまけ。

「ベーコンとトマト、サーモンとクリームチーズ。あ、あとカツサンドもあります!」

 そう、アルフレッド様は確かカツサンドがお好きだったはずだ。毎回買っていくのである。

「そうか。では、それを全部」
「分かりました!」

 わたしは一個のサンドイッチでお腹いっぱいになるんだけれど、騎士の方は訓練が厳しいのでも沢山食べるらしい。最初は面食らったものだが、最近はもう慣れっこだ。

「これは?」
 いそいそとサンドイッチを箱に入れていたら、アルフレッド様が訊ねてきた。
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