勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

4.魅了の魔法

「ああ、これは」
 それはレジ前に置いておいたフルーツサンドだった。ベーコンやサーモンといった具材の代わりに、生クリームとフルーツが挟んである。

「わたしが作ってみた新商品なんです」

 おかずになるサンドイッチもいいけれど、デザートみたいなのもいいんじゃないだろうか。

 そう思って、おばさんに相談してみたら、試作をしてもいいと言ってもらえた。最近は女性客を中心に密かな人気がある。

「君が……」

 青い目が食い入るようにそれを見つめている。真剣な顔をすると精悍さが増すような気がして、わたしはしばしその端整な顔に見惚れた。

「では、こちらも」
「あ、ありがとうございます!」

 にしても四つってちょっと食べ過ぎじゃないだろうか。こんな無駄のない、引き締まった体のどこにサンドイッチが四つも入るのだろう。

 けれど、売れ行きがいいに越したことはない。

「お待たせしました」

 サンドイッチの詰まった重い袋を手渡すその一瞬、青い瞳と目が合った。
 涼やかなその青が、不思議な色を宿している、ような気がする。

 一番上のお姉様、セレ姉は魅了の魔法が得意だった。その力を遺憾なく発揮してどこかの国の王子様を(たぶら)かして、今は見事お妃様に収まっている。

 一度セレ姉に聞いてみたことがある。ねえ、魅了の魔法ってどうやるの、と。

 ――それはね、だいすき、って思いを込めて見つめるの。そして、にっこり笑えば完璧。

 セレ姉はなんてことないことのように教えてくれた。

 ――ね、簡単でしょ? クリスタも今度やってみればいいわ。

 その瞳はわたしと同じ色なのに、紫水晶(アメジスト)のように輝いた。微笑んだその様は、妹の目から見ても美しかった。まさしく誰をも魅了する大輪の花だ。

 同時に、わたしにこれは一生できないなと絶望した。

 けれど、考えてしまうことはある。
 セレ姉みたいに魔法が使えれば、と。

 だから、わたしはその青い目を真っ直ぐに見つめ返した。そして昔、姉がしてくれたようににっこりと笑ってみた。

「またのご来店をお待ちしております」

 わたしが差し出した袋に、アルフレッド様が大きな手を伸ばしてくる。

「クリスタニア嬢、俺と」

 意を決したように、青い目がこちらに向けられる。その声が僅かに掠れて聞こえる。

「どうかされましたか?」

 わたしが首を傾げたら、アルフレッド様は切れ長の目をはっと見開いた。

「……ああ、ありがとう」

 落ち着いた声はいつものように、静かに返事をした。
 剣を握るその手は、わたしの手と重なることはない。決められたお代をもらって、それで終わりだ。
< 4 / 17 >

この作品をシェア

pagetop