勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

5.まかないと落ちこぼれ

「ねえ、クリスタ。アルフレッド様とどんな関係なのよ!」

 昼のピークが過ぎて少し落ち着いた頃、わたしが休憩室でパンを食べようとした時だった。

「どうと言われましても、ジェシカ」

 ジェシカはおじさんとおばさんの一人娘だ。
 わたしはそれだけ答えて、シナモンロールをかじった。

「とぼけないでくれる? あんなに楽しそうに話してたのに、それはないでしょ」

 隣に座ってきたジェシカにくいっと肘で小突かれる。品出しをしていたから見られていないと思っていたのに、ばっちり見られていたらしい。

 彼女の手にあるのは、歪んだクープの入ったバケット。
 成型が上手くいかなかったものや焦げてしまったものは売り物にならないから、こうやってわたし達のまかないになる。

「そりゃあ、お会計する時は少しは話すよ」

 何も無言で接客することもないだろうし。

「でも、アルフレッド様のあの顔、絶対になにかあると思うのよねえ」

 わたしを見つめたあの青い目を思い出す。

「なにもないってば」
「じゃあさ、三丁目の薬局に行ってみない? あそこの薬は魔法がかかってるみたいに恋に効くっていうし!」
「そそそそ、それだけはやめて!」

 わたしは慌てて顔の前で両手を振った。
 三丁目の薬局はメリ姉の店だ。どんなことがあっても、あそこにだけは行ってはならない。

「えーなんで、だめなのー?」
「なんでも、絶対!」

 わたしを見るジェシカの目はさっきのメリ姉のものとよく似ている。それよりは、もう少しときめきとか好奇心に彩られているような気もするけれど。

「大体さ、わたしとアルフレッド様じゃあ釣り合わないよ」

 そう、釣り合うわけがない。
 アルフレッド様は貴族の次男坊で、武術大会で優秀したこともある立派な騎士様だ。

 対して、わたしはどうだろう。
 きっと、このまかないみたいなもの。

 魔女としては落ちこぼれで、多分女としてもそこまで魅力的ではない。
 セレ姉やメリ姉みたいに、店頭に並ぶことはない。商品にはなれないのだ。

 あんな風に笑ってみても何も起こるわけがないと、頭では分かっている。
 人間には区別がつかないかもしれないけれど、魔法は奇跡ではない。きちんと起こる理由がある。

 落ちこぼれ魔女にだって、それぐらいの分別はある。

「今のままで十分」

 たまにああやってお話できればそれでいい。

「そうかなぁ」

 ジェシカがそういう呟く声だけが、休憩室に響く。ほんの少しだけ、胸がちくりとする。寂しいとも悲しいとも似た何かが広がっていくのを、わたしはパンを食べることで忘れることにした。

 うまく膨らまなかったシナモンロールは、ぼそぼそと喉を通り過ぎていくばかりだった。
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