魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 この部屋は、なんらかの儀式を行うための祭祀場なのか……ヴェロニカは中央で一段盛り上がった円形の石舞台の上に設置されている、棺のような形をした台座へと腰掛けていた。そして、その足元にはやつれてところどころ傷付いた父ゴディアが、横たわっている。

「ぐ……どうして、来たのだ。どこかに隠れていれば……よかったものを」
「…………」

 私は言葉を失った。
 その声は、確かに私をことあるごとに痛めつけ、王家への貢物としてしか見ていなかったあの父のもの。でも、その瞳には……確かにこちらを案じる輝きが見えて。

「くふふ……感動の再会と言う訳ね。よかったわねシルウィー、優しいお父様が戻って来て」
「ぐぁっ! うぐぅぅぅ……」

 ヴェロニカは笑うと、その足に履いたハイヒールで父の背中を踏みつけ、ぐりぐりと踏みにじった。苦痛の声が父の口から漏れ、私は思わず耳を覆う。

「やめてっ!」
「おや、どうしたの? この男は私に操られていたとはいえ、散々あなたを道具扱いして痛めつけた最低な父親でしょう? どう? ひどい目に遭うのを見て、とっても気分が良いんじゃないかしら。ほらほら――」
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