魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
ルネはマルグリットの傍までやってくると、その顎をぐっと掴んだ。
『呪いを解けると思うのならやってみるがいい。だが果たして、可愛い赤子もお前も、その時まで耐えていられるかな?』
『なんて……ことを』
マルグリットは呪いの苦痛に脂汗を浮かべながら、油断した己に歯噛みする。ただでさえ、妊娠時は魔力が大幅に低下し、出産間近の今はその割合が一番大きく増している。今の彼女には、自分とシルウィー、ふたり分の呪いを同時に消し去ることはできないだろう。どちらかの呪いを先に解こうとすれば……確実にどちらかが死ぬ。
マルグリットの苦悶の表情をしばらく眺めていた闇の精霊は、抵抗もできない彼女を満足そうに見下すとゆっくりと後ずさっていった。
『ふふふ……残念だったな。赤子のことさえなければ、今の弱体化した私を葬り去ることなど、造作もなかったろうに。家族などという差別的な概念が、己の心を他者に委ねようとするその弱さが、お前に死を運んだのだ。さて……私はもう侮らないよ。人間は死の間際に最も大きな力を発揮するからな。そんなものに巻き込まれて掴んだ勝利を手放さぬよう、さっさと退散するとしよう……。ああ、いい気味だ。これで最大の障害が私の前から消えた』
『…………く、ぅ』
この時点で、闇の精霊は確信していた。マルグリットは決して……例えこの帝国数十万の民を秤にかけてでも赤子を諦めず、自らの命を賭して守りに入るだろうと、と。
『呪いを解けると思うのならやってみるがいい。だが果たして、可愛い赤子もお前も、その時まで耐えていられるかな?』
『なんて……ことを』
マルグリットは呪いの苦痛に脂汗を浮かべながら、油断した己に歯噛みする。ただでさえ、妊娠時は魔力が大幅に低下し、出産間近の今はその割合が一番大きく増している。今の彼女には、自分とシルウィー、ふたり分の呪いを同時に消し去ることはできないだろう。どちらかの呪いを先に解こうとすれば……確実にどちらかが死ぬ。
マルグリットの苦悶の表情をしばらく眺めていた闇の精霊は、抵抗もできない彼女を満足そうに見下すとゆっくりと後ずさっていった。
『ふふふ……残念だったな。赤子のことさえなければ、今の弱体化した私を葬り去ることなど、造作もなかったろうに。家族などという差別的な概念が、己の心を他者に委ねようとするその弱さが、お前に死を運んだのだ。さて……私はもう侮らないよ。人間は死の間際に最も大きな力を発揮するからな。そんなものに巻き込まれて掴んだ勝利を手放さぬよう、さっさと退散するとしよう……。ああ、いい気味だ。これで最大の障害が私の前から消えた』
『…………く、ぅ』
この時点で、闇の精霊は確信していた。マルグリットは決して……例えこの帝国数十万の民を秤にかけてでも赤子を諦めず、自らの命を賭して守りに入るだろうと、と。