魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ――がりっ、と石の床を削るような音がして、倒れていた父が闇の精霊の足首に向けて手を伸ばした。

「お前がそれを言うのか! なんと滑稽な!」

 だが、それはあざ笑うかのように躱され、父の言葉をけらけらと笑い飛ばした彼女の踵で遠慮なく踏み抜かれた。含み笑いは止まらない。

「くくくく、結果帝国はもはや……私の手に堕ちる寸前。シルウィーよ、もう分かっただろう、お前は大罪人なのだ。今苦しんでいる帝国民すべての不幸の元凶となったのは、マルグリットを死に至らしめたお前自身の存在なのだから!」
「そ……んな」

 絶望に目の前が真っ暗になった。ボースウィン領の災害やスレイバート様の呪いも、リュドベルク領のカヤさんの苦しみも、そして他の領地に起きている様々な問題も……すべて、私さえお母さんのお腹に宿らなければ起こらなかったこと。私が……皆を苦しめて――。

「――違う、話をすり替えるな! シルウィー、お前に罪はない! 罪があるとすれば、元凶である目の前の者と私だ! 愛する妻を救えもせず、心を操られ、お前にただ苦しみを与えるばかりで親としてふさわしくあれなかった、この私が……。彼女に、あれだけ幸せにしてあげて欲しいと託されたのに……。すま、ない……」
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