魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 もう脅しもいらないとばかりに、ヴェロニカが父の身体を打ち捨て、こちらに向かってきた。それに対し、私は視線を向ける気力すらなく。
 そんな私の額に、闇の精が白い指を伸ばして触れる。

「その愚かさだけが、今では愛しくも感じられる……。さあ、シルウィーよ。お前にはその目ですべてを見届けてもらおうか。世界を消滅に導く第一歩を……このラッフェンハイム帝国滅亡の生き証人として」

 身体を包む闇が、どこか優しく私の身体から熱を奪いだした。先程からさかんに働きかけていた胸のペンダントも輝きを失い……視界が、ゆっくりと閉じられてゆく。

(ごめんなさい、スレイバート様……。ごめんなさい、皆……)

 約束を守れなかったこと……そして、自分が存在したことへの繰り返しの謝罪が、心の中の自分自身をがんじがらめに縛り付ける鎖となって、罪の架台へと磔にする。もう、動くことさえ許されない……どうして償えばいいのかも、分からない。

 そうして……私は目蓋に心で鍵をかけると、自分自身をこの世界から切り離した――。
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