魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 聞きようによっては艶めかしいその誘いに全力の斬撃で応えつつも、俺も相手にペースを握られてばかりではいられない。

「そうまでして、なにがあんたを親父のもとへと駆り立てたんだよ! どうして自分の国のことだけで満足していられない!」
「ハハハ、小難しい理屈など考えたことはないな。手に入りそうにないものだから、焦がれたというだけかもしれん。だがな……」

 剣撃の合間に挟まれるそんな会話すら楽しみつつ、女王は断頭の刃を振るう。

「あの人はいつも戦場で余を見つけてくれた。出陣していると、どんな苦境に追い込まれようと決まって仕方の無さそうな顔をして、相手をしに来てくれたのだ。そしていつも、余を一通り満足させると、早くいい男を見つけて幸せに暮らせと諭して帰らせた。その優し気な声も、美しい立ち姿も、彼はどんな男より余を昂らせた! それが……理由にならんか!?」

 それは親父にしたら、女王を放置しておけば軍に大きな被害が出る一方で……敵国の君主である彼女を殺せば、ベルージ王国にどんな混乱と悲劇が起こるか分からない。それをすることで悪戯に多くの民が苦しむ原因を作るよりかは、せめていつか改心することを願い、それまでは自らの身体で受け止めようという親父らしい配慮だったのかもしれない……。

 けれど、それはこの領地の領主としても……女へ対する対応という点でも正解とはならなかった。巡り巡って、その責任を押し付けられているのは、この俺。
 なんの関係もない息子をこの女は、今積年の想いと共に押し潰そうと現れたのだから――。
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