魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「皇太子殿が……!? にわかには信じがたいが……いや」

 王都回りの世情に疎いクリムだが、そこは長年の付き合い。すぐに俺の言葉を信じてくれた。

「分かった、ならばここはわしが預かろう。スレイバートよ、狙われているお前は迅速にこの地を脱し、国王に皇太子の無体についてご奏上差し上げろ」
「いや……俺も戦う」

 するとクリム爺はこちらの宣言に倍する声で怒鳴りつけてきた。

「ふざけるなバカもんが! あの兵士に魔物の数、まともに当たれば我々とてどうなるか……生き残れるかどうかすらわからんのだぞ!」
「だからこそだ」

 俺は胸倉を掴んできたそんな彼の手を外すと、真剣に言って聞かせる。

「ここで俺だけ逃げ出したところでどうなる。そうなりゃ、やつらはボースウィン領を手当たり次第に破壊して、俺をおびき出すことを躊躇わない。失われる命はここにいる兵隊の比じゃなくなるぞ。俺はこの領地を預かる長として、全力でそれを防ぐ責任がある……。そのために、これまで育てて貰ってきたんだろ……ここの皆に」
「しかし……お前は」
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