魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「…………さっきの戦いだって、ほとんど領主様頼みの戦いだったよな。このまま帰って、僕たちは、家族に誇れるものがなにか……あるのかな」
「俺は……怖いけど戦うぞ。今も村のやつらが、どれだけ毎日生き抜くために苦労してるか知ってるからな。ここでもし負けたら、もっとひでえことになるんだろ? そんなの、許せねえよ……」

 呆然としていた兵士たちの目の色が変わり始める。
 ひとりとして離脱者がでなかったわけではない……。けれど――――。

「ああ……立ち向かわなきゃな。戦って、この手で守ろうぜ、自分たちの……居場所を!」
(そりゃそうだよな。ここにいるそれぞれが、皆大切ななにかを守りぬくために、こうして集まってくれたんだから)

 ひとりひとりの兵士たちの異なる顔――緊張に強張ったもの、怒りで奮い立つもの、希望を支えに未来を見つめるもの……。
 だがそれらからはもう、怯えは見られない。揺るがぬ意志を秘めたそれらを目に焼き付けると、俺は振り向き、恐ろしい勢いで迫る前方の砂煙を睨んだ。

 皇太子軍は目前に迫り、駆けてきた勢いそのままこちらに軍をぶつけてくるつもりだ。
 だが――絶対に負けない。俺はそう確信すると馬に跨り剣を突き上げた。
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