魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 途中でぼろぼろの魔法士が提供してくれたポーションを、その意志ごと受け取る。“勝つ”――そんな想いが込められた魔法の小瓶で魔力と精神力を回復させると、俺は生ける屍のような帝国軍を蹴散らし、とにかく突き進んでいった。そして――ついに。

「来てやったぜ……。テメーの国を悪魔に売った、クソ皇子様よぉ……」

 完全に目の前が開け、高みの見物を決め込んでいた皇太子ディオニヒトを目前に捉える。

 豪華な金張りの椅子でふんぞり返っていたやつは、俺の姿を認めると地上へと飛び降り、不敵な笑みを浮かべた。

「ふ、くくくく……存外に余力を残して現れたな。侵略者どもとの戦いで疲れ果てた貴様を後方からの奇襲で絶望させ、力尽きたところを捕縛する。その後は王都へと引きずり出し、皇家に刃を向けた反逆者として……二度とこんな愚か者が出ないよう、盛大かつ惨たらしく処刑してやるつもりだったのだが……」

 やつの顔には、警戒や恐れなど微塵もない。

 つい先日力の差を思い知らせてやったのが嘘のようだ。驕り高ぶり、疲労さえあれば埋まる程度の実力差だと考えたか……もしくは、自身の源たるなんらかの力を手にしたか――。
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