魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 気付いたら、やつのレイピアの切っ先が鼻先に触れかけている。俺は身を捻ってなんとかそれを躱すと、追撃が来ないことを確認し、大きく距離を取った。

「くっくっくっ……」

 皇太子は、だらりと下げた背中を震わせて笑いながら、こちらにくるりと向き直る。

「おっと……やりすぎてしまったな。一撃で頭を貫くのではなく、もっといたぶるつもりだったのだが……。まだ体がこの力に慣れておらんらしい」
「へっ……なにか悪いもんでも食ったのか?」

 憎まれ口を叩きながらも、俺は冷や汗と共に掠めた頬から流れ落ちる血を拭う……。

 まともに受けていれば、さっきの攻撃で終わっていた。
 ベルージの女王と同等か、それ以上の身体強化。例えどれだけ修業を行おうとありえない、短期間での異質な変化。明らかに何者かが、彼の身体に魔法的なもので手を加えている。非人道的な手段でもって……。

「不思議に思っているのだろう……? なぜ、私がこれほどまでの力を得るに至ったか――」
「ぐうっ――!?」
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