魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「来な」

 そんな私の手をさっと取ると、彼はそのまま私を引きずって、広いホールに足を踏み入れた。おそらく普段は大勢の人を呼んでパーティーをするような場所なのだろうけど、今は誰もいないのでひっそりと静かだ。中央に座す大きなグランドピアノは、いくつか空いたカーテンから取り込まれた日差しでうっすらと輝きながら、音を奏でる時を待ち侘びている。

 こんなところで何を……と不審がる私の前で彼は引いていた手を離すと振り向き、私に改めてサッと手を差し出した。

「せっかくなんだ……踊ろうぜ、ふたりで」
「私と……ですか?」

 ここには、いそいそとピアノ奏者席に収まってしまったテレサを除けば私しかいない……というのに、当然のことを再確認してしまう。それは気後れとか、男性と踊ることが私にとっては初めての体験だからじゃなくて……なんだか怖くなってしまったから。

 皇太子様に婚約破棄を受けてから、なんだか、私の人生は恐ろしい速さで動き始めている。失いかけた命を救われ、たくさんのこれまでなかった出会いに心揺らされ、そして新たな力にも目覚めた。
 この人たちなら、私を家族として温かく迎え入れてくれる。そう信じたい……。
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