魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 残像を伴って突き出される切っ先は受けるだけで氷剣を両断し、鍔迫り合いに持ち込むこともできない。次第になくなる逃げ場に背筋が冷たくなる。

 よくよく見れば、皇太子の身体の露出部には黒いものがいくつも浮かんでいた。それは、以前俺が呪いを受けた時の痣に似てはいたが、おそらく別物。

 身体の各部……耳の端や犬歯、瞳孔なども魔物のように変化し始めているのを見る限り……ヴェロニカはディオニヒトにかけた呪いに相手を苦しませるのとは別の方向性をもたせたのだろう。能力を増加させるのと引き換えに、魔物へ変化させる――それはすなわち、人体の魔改造ともいうべきおぞましき所業。

「フハハハハ、力がいくらでも湧き出てくる! もはや、貴様など恐るるに足らん!」
(より好戦的に……。変化が進むほど、自我が消えていってやがんのか。このままじゃ……)

 執拗に攻撃を繰り返すたび、そこから繊細さは失われ、圧倒的に増強された魔力は生来のものから黒色に近づいてゆく。

 隙をついて何度攻撃を与えてみても、やつが纏う魔力がそのまま鎧となって、こちらの攻撃を寄せ付けない。
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