魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 だが、そう言って表情を曇らせるふたりの後ろで、クリムはさほど心配していないようにガハハと笑った。

「案ずることはない。今回のように、いざとなれば人は限界以上の力が出せるもんじゃ。それに、まだまだ不甲斐ないが、お主らみたいな若者も育っておる。戦や飢餓で、もっと酷い状況に陥りかけたことなどいくらでもあったわ。それでもいつも、諦めずに皆が自分の持てる力を尽くしていけば、自ずと未来は切り開かれた。だから、これからも必ずなんとかなる。そう信じて……やっていくしかないんじゃよ」
「ったく……ジジイは昔を美化すんのが得意だからなぁ」
「なんじゃと?」
「っでで、嘘々! ジジ……いや、大先輩の言葉は重みが違うって」
「ふん! そうじゃろうが」
「……あはははは! そうですね、きっと……これからも僕らは大丈夫だ」

 老将軍の太い腕に窒息しかけたラルフが慌てて意見を翻し、ルシドが明るい笑いを響かせると、それは周囲にも伝染していく。
 そうしてひとしきり笑っている間にも、また違う方角から、ひとつの部隊が近づいて来た。

 その先頭に立つ、いかにも金のかかった鎧兜を纏う男性が、剣を振り上げながら大声で叫んでいる。
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