魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「やあやあ遅くなった! スレイバート殿はどこにいらっしゃるか! あなたの莫逆の友、このバルテン・ゲルシュトナーが危地を救いに馳せ参じましたよ! 私が来たからこそには、もう安心……ベルージ王国の軍隊など、押し寄せる怒涛の波のように、やつらの国に押し返して見せましょうっ! その折には、やはり金貨で謝礼を――――むむ? こちらは帝国側のはずだが、一体なにが?」

 さらにまた、頼りになる仲間……といえるのかは分からないが、スレイバートに力を貸そうという者たちが現れたようだ。
 それを見てラルフはやれやれと手のひらを頭の上で広げた。

「ま~たなんか変なのが来ちまった。まぁせっかくだし、戦で穴だらけになっちまった地面でも、埋めといてもらったら? さ~て、オレは兄貴に怒られそうなんでこのままリュドベルク領に――」
「逃がさんぞぉ。倒した魔物の処理に、傷病者の救助や搬送、砦の崩落部分の改修など、やることは山積みじゃ。そこまでやって初めて、兄君である公爵殿にも、そなたの働きを認める報告をしてやろう」
「うへえ……とんでもないツケがきやがったもんだぜ」
「では――共和国軍の第三部隊以降は、このまま帰還の準備を! こちらに残る人たちは、イシュボア侯爵の指示に従い、負傷者の救護や物資の搬送に協力してあげてください!」

 首根っこを掴んで引き摺り戻されたラルフはいやいやクリムの指示に従い、ルシドも部下たちにきびきびと采配を振るう。

 そんなそれぞれの目は、欠片も疑っていない。
 当然のような澄まし顔と、見る者を和ませる穏やかな笑顔で……スレイバートとシルウィーが、共に帰ってきてくれることを。

 このひとつ、またひとつと乗り越えてゆく困難な今日も……いずれは望んでいた穏やかな日々に続いていくのだと。
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