魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ――今……なんと。

 耳にはっきりと届いた言葉を必死に拒絶する俺から離れて……彼女は一度俯かせた顔を持ち上げた。その瞳が、露わになる。

「――――そん、な」

 言葉を失った。

 その冷酷で、あらゆるものから奪い尽くすことだけを望むかのような目付きは、いつもの柔らかな輝きを宿したシルウィーのものじゃなく――。

 漆黒すら呑み込んだ――あらゆる光を喰らい消し去る、虚無そのもの。

 そして彼女は……同じ顔でこうまで変わるのかという醜悪な笑みを浮かべると、シルウィーと寸分たがわぬ声音で宣告した。

「シルウィー・ハクスリンゲンは消え、帝国滅亡の幕は上がった……。さあ……この世の全てを闇に包み、氾濫せし数多の生命をひとつ残さず、怨嗟と悲哀渦巻く混沌へと誘うとしよう――!」
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