魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

13.側にいてくれたなら -invincible-

「うそ……だ」

 目の前でこちらを見下ろしている特別な女性を前にして……。
 膝をついた俺は縋りつくこともできずにただ、その姿を見つめていた。

 シルウィーが、あんな――すべてを憎しむがゆえに歪み果てたような顔をするはずはない。

 俺の知る彼女は、そう表情豊かな方ではないし、積極的に人の輪の中心に立とうとするようなやつじゃない。けれど……気が付けば穏やな微笑みを浮かべ周りの人を見守っているような……そんな優しい娘で――。

 なのに、今のシルウィーからは、そんな他者への慈しみは、露ほども感じられない。
 なにもかもを厭うかのような捻じれた眼差しと、ひどく吊り上がった唇の両端。その表情からは、命あるものたちに対する途方もない害意しか、伝わってこないのだ。

「シルウィー! 目を覚まして、俺の名前を呼んでくれ!」
「ククク……ハハハハ。それでお前の気が済むのなら、名前くらいいくらでも呼んであげよう、スレイバート。だがな……先ほど言った通り、もうそんな女はどこにもいないのだ。私は、闇。全ての光が生み出したくせに、やつらにとって都合悪しと弾き出された影の部分。ふ……ふふ、それをここまで育て、集めるのにどれだけの時間がかかったことか……本当に、素晴らしい!」
「――――っぐぅ……!」
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