魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 その印象を肯定するかのように、小馬鹿にした様子で俺を呼んだシルウィーの背中から、絶望的に濃い……もはや暗闇そのものとも言える瘴気が噴き出し、圧力だけで俺は大きく後ろへと押し出された。

 こうして立っているだけで、砂嵐で肌を削り取られているようだ。魔力で身体を覆っているというのに、絶え間なく灼けるような痛みが襲い来る。
 だが……それでも。

「ふざけんじゃねえ……。人の、恋人の身体を、勝手に……使ってんじゃねえぞ! シルウィーを、もとに戻せ!」

 激痛に耐えながら踏みとどまり、手を伸ばしながらひと踏みずつ足を近づけようとする。

「こうまでして事実を呑み込めないとは、人とは愚かしい生き物だな。ならば、少しだけ遊んであげよう。愛した女の手で壊されるのに、どこまで耐えていられるか」

 シルウィーの身体も、試すかのようにゆっくりと、こちらとの距離を詰めてきた。そうされると俺は、その場に動かずにいるのが精いっぱいで、瘴気が身体を冒す燃えるような痛みに、目も開けていられない。

 しかし、それでも俺は……。
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