魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「……く、はぁ……っ。シル、ウィー……戻って、こい! お前がいなくなっちまったら、皆、泣いちまう。俺だって、生きていけない。お前のいない、人生なんて、何の意味があるってんだよ……」
「強情な男だ。それだけの美と力があれば、女などいくらでも手に入るだろうに……。この娘の身体が、そんなに欲しいのか?」

 引き下がらずに堪え続ける俺に、呆れた顔をしながらシルウィーを操縦する闇は、両手を広げた。

「触れられるものなら触れてみたらいい。その瞬間、自らの身体が崩れ落ちてゆく感触に後悔するだろうがな」

 まるで聖母であるかのようなその誘いがもたらす先には、滅びしかない。
 そうと分かっていて、こちらを待ち受けるシルウィーの身体にじり寄ると、俺は手を触れ――。

「っあぐうっ……!」

 燃えるような痛みが指先から脳髄までを貫き、一気にのけ反る。溶けた鉄に晒されたように肌から煙が上がり、意識が途絶えそうになりつつも……俺はそれでもこいつのことを諦めきれず、身体へと抱きついた。

「ぐっ、ぁあああああぁぁぁぁ――――!」
< 1,110 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop