魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「……お、れ、は……」

 だが……地獄の苦痛を手放し、安易な選択に逃げそうになった俺の口を、なにかが塞ぐ。

 思い出……。忘れようもない、シルウィーと過ごした数ヶ月の記憶が……まるで俺の心を守ってくれようとするかのように、ひとりでに頭の中にイメージとして広がってゆく。

 はっきりと意識が戻る。ここで、諦めれば……二度とシルウィーは戻ってこない。
 それくらいなら――。

「……わら……わせんな。ガワをまとっただけで、シルウィーになりすませた気に、なってんじゃ……ねえ!」
「なんだと?」

 俺は脂汗を浮かべた苦痛の表情を力技で笑みに変えて見せると、離れまいとするように、逆に両の腕に力を籠める。瘴気の浸透が俺の身体を破壊してゆくが、同時に思い出す……。

 あの時だってこれくらいの痛み、何日だって耐えてきた。苦痛がなんだ……そんなことくらいで、俺は大切なものを手放したり、したくない。
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