魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「……スレイバート、様?」

 艶々と美しく輝くそれは、俺の顔をしっかりと認め、その表面に映している……。
 それにその、おっとりと可愛らしくこちらの名前を呼ぶ声は、間違いなく――。

「どんだけ……心配させてくれやがんだよ。この……バカ!」

 胸が痛くなるような安堵感に取り乱すしながらも、俺は胸の中に彼女を思いっきり掻き抱いた。

「ご、ごめんなさい……!」
「許さねー……一生」

 俺は瞳から零れる熱いものが見られぬ内に、ぎゅっとシルウィーの頭を自分の胸に押し当てた。
 綺麗な髪の感触と大好きな香りを身近に感じ、彼女を滅茶苦茶に愛でてやりたいという衝動が治まるのを待つ中……背中を撫でてくれていた彼女は、ややくぐもった声でこう言う。

「大丈夫。もう、絶対にどこにも行きませんから」
「ふん……。お前は、そうやっていつも嘘をつく」
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