魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
『そして他にも、地底湖に連なる水脈は、網の目のように国中にも広がっており、その影響は帝国全域に及ぶ。そこで私は、聖地ともいえるその湖を逆に利用することにした……負の力を集める器としてな』

 コト、コトと硬いものが周りに置かれ、なにかの儀式の準備をしているような気配がしてくる。地面に文字を書くような音が聞こえてくるが、冷たい石の上に寝かされている私には、暗く沈んだ心の内側しか見えてこない。

『私は、そうして集められた呪いの力を、こうしてひとつひとつ手元の像に蓄えていた。だが、今日……それらすべてを解放するとともに、お前の中に注入する。さすれば、我が呪いはお前の中のものと溶け合い、これまでにない膨大な闇の力を生み出すはず。この国土に満ちた、何千万人分の負の思念が注ぎ込まれれば、さすがに賢者マルグリットが生み出した類稀なる魔法といえど耐え切れまい。そして、精霊に愛されしお前の身体は私が移るにふさわしい、完全なる闇の依り代となるだろうな。ククク……完成が楽しみだ』

 彼女が何か恐ろしいことを始めようとしているのは分かっていたが、私はもう、指一本すら動かすことができない。
 ヴェロニカが、低い声で呪文を呟き、魔法陣が血の色に明滅を繰り返す。

 そうして、周囲で、パリン、パリンと、断続的に割れものが破壊される音が響いてきて、そこから私の内部にどんどん嫌なものが入り込んでくる。

 いつもの瘴気とは比較にならない……スレイバート様やカヤさんから取り込んだのと同質な呪いの力が、濁流のように私の心の中を溢れかえらせる。
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