魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「…………ああっ」

 細い鎖が千切れる様な、清らかで寂しい音を立てて……私の目の前で、母の揺り籠は崩れた。
 そして……同時にふっと灯りを消したように、私の身体を真正の、なにも通さない暗闇が包み込んでしまった――。



 ――そうして今……私はぼんやりと、その暗闇の中に漂っている。

 私という存在は、闇の精が注ぎ込んだ呪いの力によって塗りつぶされ、あちらの世界から完全に弾き出されてしまったのだろう。
 だんだんと、自分が自分であるという認識が少しずつぼやけてくるような気がする。きっとこうしている今も周囲に満ちる闇に少しずつ溶かされていっていて、私が私でいられる時間はもうそんなに長くはない。

「……いやだなぁ」

 ぽつりと……そんな言葉が口から飛び出した。
 このまま、誰もいないところでひとり世界に別れを告げるのは寂しい。心細さに、胸が張り裂けそうになる。
 私は必死になって、今までの記憶にしがみつこうとした。
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