魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そして初めて気付いた。黒い闇の中ではおそらく、とても多くの人々から集めた負の思念――今は亡き亡者たちの妄執が、荒れ狂うように渦巻いているのだ。どうして、私はこんな中で正気でいられたのか……。

 その答えはすぐに見つかる。周囲に、わずかに光る金色の粒が私を取り巻いているのを発見したのだ。これは、もしかして……。

「お母、さんの……魔法? まだ残って……」

 あの時破壊された、金色の揺り籠を構成していた魔力が、おそらく……ずっと私が消滅するのを防いでくれていたのだ。こんなに小さくなってしまっても、なお輝きを失わず、私のことを包んでくれている。その温かさに……滲み出る涙で視界がぼやけてくる。

『手をこまねいている暇はありませんよ! 今から私と残りの者で、お前のもとへ、こちら側の世界への道筋を照らします! なんとかそれで戻っておいでなさい!』
「えっ! や、やってみます!」

 光の精霊のそんな声が聞こえ……暗闇の中にひとつの恒星のごとく輝く、白黄色の十字光が浮かんだ。あれを目指せということか。
しかしそれは、大地から星までを隔てるくらいに遠く見え、私は両手足を振り回してみるも、進めているのか……どうすればそこに辿り着けるかが分からない。その時だった――。
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