魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 胸から溢れ出たいろんな思いをぶつけたくて、もうどうしようもなく、わめき出した気持ちに駆られる。
 だけどどうにか――どうしても言いたかった一言を選び取り、私は口に出すことができた。

「私を産んでくれて、ありがとう! お母さんっ!」

 叫ぶと同時、白い十字の中心に頭から飛び込んだ。精一杯絞り出した声は、ちゃんと届いただろうか。
 精霊たちが作ってくれていた目印を抜けると、私の身体を温かいいつもの暗闇が包んだ気がした。が……私はそれよりも、目の前に夢中になって手を伸ばす。

 そこでは金色の光の粒が、母の姿を一瞬だけ形作っていて……。

 それは記憶にあったのよりも、ずっと素敵な微笑みを浮かべていた。私はそれを必死に抱きしめようとしたけれど、もうその時には……。それは両の腕をすり抜け、輝きながら頭上に遠ざかって消えてしまう。

「…………」

 心が悲しくて寂しいのに……とても温かいもので満たされている。
 最後まで、ずっと救われっぱなしだった……。力のこともだけれど、それ以上にお母さんの存在は、ずっと孤独な私の気持ちの受け皿になってくれていたのだ。
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