魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「……瘴気が消えてねー。ってことは、まだ闇の精霊ってやつは……倒せたわけじゃねえってことだな」
「そうですね…………。あっあれ! 見てください!」

 暗くて見えにくいが……戦いの衝撃か、ところどころ崩壊した儀式場の中心に、見慣れないものが渦巻いている。それは燭台に燃える篝火の火すら吸い込み、まるで空間そのものにぽっかりと穴を開けたように黒々と存在していた。

 石棺の下には未だヴェロニカの身体が横倒しになっている。しかし闇の精霊は彼女の身体に戻るそぶりも見せない。ずずっと重い音を立てながら、精霊教会の天井を突き破って出ていった。

「くそ……追うしかないな」
「す、少しだけ待ってください! 彼らを……」

 私とスレイバート様は、気を失ったままのヴェロニカを安全な通路に避難させると、彼が氷で作ってくれた足場に乗って、精霊教会の外へと脱出していく。

 その頃には、足元から小刻みな地鳴りが発生していた。スレイバート様は私を抱き上げると屋根伝いに飛び移り、教会敷地内の地面へと降り立つ。そこでは……。
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