魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「そ、そんな大事が起きていたのか……? 道理で空がいきなり暗くなって、胸が苦しくなったと思ったら……」
「お、俺も精霊教会のてっぺんから黒い化け物が出てくるのを見た気がするぞ! そっちの娘さんが追い払ってくれたってことだよな……!」
「へえ~、ハクスリンゲン家って没落したって聞いてたけど……。さすが偉大な賢者の血筋、立派なものじゃない!」
「聞いたことあるぜ! ボースウィン領に偉大な聖女様が現れたって……あの人が、もしかして?」

 どうやら、スレイバート様は私の思いを汲んでくれたのか、今回起きたことを表沙汰にはせず済ませるつもりのようだ。私もそれでいいと思った。精霊教会の存在は、国民の生活に広く組み込まれているし……全て解体しようというのはあまりにも無理がある。

 意識を取り戻したヴェロニカをそのまま巫女の座に置いておくこともできないだろうし、上層部はいくらか責任を取って入れ替わることになるだろうけれど、その辺りはまた、帝国がうまい匙加減でやってくれるだろう。
 そんな風に一息吐いていた私の頬が、次の瞬間真っ赤に染まる――。

「それから――俺達、もうすぐ結婚するんだ! だから丁度いい! 王都の皆、どうかこの場で祝福してもらえないか!」
(うえぇぇぇっ……!?)

 高らかな美青年の宣言に、私は両手足をばたつかせてひどく動揺した。
 王都の人たちはしばし呆気に取られていたが、それが治まると、小さな笑い声と共に、まばらな拍手が送られ始め――。
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