魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「お前は、この領地のやつらを……俺のたくさんの仲間を救ってくれようとしてる。お前が来てくれてなきゃ、俺は領主としての誇りも、希望も、大切な家族もなにもかも失っちまうところだった。だから、お前が俺のことで気に病む必要なんざ、ひとつもねえんだよ」

 まるで、立場が逆みたいに……彼は私の涙を胸元で受け入れ、優しく囁きかけてくれる。

 ぶっきらぼうで怒りっぽくて、普段はいけ好かない態度でこちらを見下したりするくせに……本当はいつだって、側にいる私達のことを考えてくれる、そんな人で。

 大切なもののためにすべてを投げ出してきた、そんな彼だからこそ、こんなにも――会って間もない頃から私はこの人に心惹かれていったのだと、今さら……気付いた。

「俺になにかあったら、お前は自由に暮らせ。勧めはしねえが、ここに留まってもいいし、どこかもっと過ごしやすいところで新しい生活を始めるのもいい。まあ、正直言うとたまにテレサのことだけ気にしてやって欲しいけどな。他のとこにいるあいつの母親も、実は悪い人じゃなくてさ。どうだ、お前らふたりでそっちに移り住むってのも悪くは――」
「嫌です――!」

 自分でも驚くくらいの、喉が破れそうな声で私は彼の提案を拒んだ。そして胸の中で懇願する。
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