魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 私はシャツの生地をぎゅっと握りしめた。

 いつも……いつもだ――。婚約を破棄された時も……ボースウィン領に送られようとした時だって、文句ひとつ言わずされるがままで。逃げ出す勇気も、現状を覆す努力もせず……ここに来てからは少しはましになったにせよ、運の良さと周りに助けられ、そんなもので満足しているうちに、こうなってしまった。

 都合のいい未来にを信じることにかまけて、見たくない現実から目を逸らし、あげく後悔する。それでもよかった。今までは自分だけの問題だったから。

 でも……今回だけは、決して誤ってはならなかった。
 一刻も早く気付いて必死になるべきだった。初めて私を認めてくれた、なによりも大切な人の存在が懸かっていることに。

 絶望的に浅はかで、酌量(しゃくりょう)の余地もない、愚かな……自分――。

「ありがとうな。一緒にいてくれて」

 なのに……こんな私を彼は、大事な残り時間を使って慰めてくれて。
 感謝すべきは私の方だ。自分すら見放していた私に、この人は希望をくれた。

(本当にもう……いなくなるんだ)
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