魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 だとしたら、自分のことだけで手一杯になっていた私にも問題があるのかも。

 今度、テレサに聞いて彼の好きなものでもプレゼントするついでに、私のことなんてその辺の雑草くらいに考えてくださって構わないんですよ――などと伝えてみようか。
 そんなことを思っていたところ、通りがかったひとりの男性が挨拶してくれた。

「やあシルウィー様、お元気そうでなによりです。昨日は災難だったみたいですねぇ」
「クラウスさん」

 彼は、スレイバート様の執務補佐を担当している方で、ルシドとは違った意味での腹心の部下だ。

 見た目三十代の前半くらい。灰色の髪に青い目、落ち着いた上品な服装といった身なりからは几帳面が感じられるのだが、同時にどこか力を抜いたような洒脱な雰囲気を持ち合わせていて格好いい。

 伯爵貴族の家の出らしく、残念ながら魔法士でないため瘴気の溢れたボースウィン城に留まることは叶わなかったものの……その後もスレイバート様の手足となって近くの街からボースウィン領全体を監督し、傾むこの地を支え続けた、心ある人物でもある。
 尊敬すべき年上の方なので最初は敬意を持って様付けで呼んだのだけど、強く固辞されてしまったことからも、その謙虚な人柄が窺えるところだ。
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