魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 姉のアイリーンが、勇敢にも反政府派の者たちにある提案を持ちかけた。自分たちを生かしてくれれば、反政府派に必要な情報を秘密裏に流すと。

 当時まだ幼かった彼女だが、長女たる責任感からか聡明に育っており――身に宿る風魔法の力と比較的自由に動ける子どもという立場を生かして、その頃には元首邸にて行われる政治的交渉の内容をいくつか抑えていた。

 それを教える代わりに、自分たちの安全を保障して欲しい……。加えて、彼女は現政府を支持する国民の信頼を得るため、反政府派を率いる人物の家に嫁ぐこともいとわないと断言した。

 そのことにより、ただ処刑するよりは利があると悟った反政府派の者たちは、アイリーンの提案を飲む。よって、姉弟ふたりとそれを世話をしていた使用人は、彼らの拠点へと移送されることとなった。

 しかし……ルシドを人質にして、アイリーンを思うがままの傀儡(かいらい)に仕立て上げようと思っていた反政府派の思惑は外れた。アイリーンが隙を見て、監視役に身に忍ばせていた宝石を握らせ、ルシドと使用人を逃がしたからだ。

『――あなただけは、必ず新しい場所で幸せにならなければいけないわ。この国で起きたことはすべて忘れなさい、いいわね?』

 そう言って懸命に笑顔を作り自分を逃がしてくれた姉の優しさを、今でもルシドは忘れていないという。
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