魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ヴェロニカの首元にかかる甘い吐息と、密着した柔らかな肢体の感触に……ディオニヒトはごくりと生唾を呑み込むと、大げさに咳払いをする。

「う、うむ、そうだなっ! 旅はお互いを知るに非常にいい機会だと聞く。それに、あの土地は長年敵国や魔物の脅威に晒されてきた土地。そんな場所の民を見舞うためといえば、大義名分にもなりえよう! 分かった、必ずや父上を説得してみせる」
「あら、なんて嬉しいこと……! わがままな私のお願いを聞き入れてくださるなんて」
「当たり前だろう。時期皇妃となる私の大切な女性なのだから」

 無垢な少女のように抱きつき、皇太子の頬に唇と押し付けるヴェロニカ。しかしこの時、彼女の頭にはまったく別の思惑が浮かんでいた。

(ボースウィン地方と繋げてある災いの像に闇の魔力が断たれたという反応はなかった。ということは……あの地の呪いは、解かれたというより突然消えた……ということ。その上聖女だなんて眉唾の存在が現れたですって? ……何が起こっているのか、確かめる必要が出てきたわね)

 あの地で長年育ててきた呪いが、何者かの手によって奪われた。そのことについて瞳の奥に、かすかな憤懣(ふんまん)を浮かべつつも、ヴェロニカは皇太子に媚びを売ろうと腕を引く。
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