魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 声を荒げて逃亡を促す男性に、私は必死に首を振った。助けが来る見込みがあるなら、こうして私が身を楯にして一撃凌げば、彼だけでも万に一つ生き残れるかもしれない。

 死ぬのは怖い、すごく怖い……。だけど、なんの力もなく、誰からも必要とされてない私なんかより、彼のような、誰かを助けられる人が助かってほしい……!

「バカが……くそっ。だが……結婚相手の腕の中でくたばるなら、まだましかも……な」

 しかしそれすら、本当に奇跡のような確率で。 再三の忠告も聞かずにしがみ付く私に、滝のような汗を流した彼は諦めたように身を委ねてきた。
 その口元に浮かぶ苦笑を見て、私もわずかに――誰かを守ろうとしたのなら、少なくとも悪い終わり方ではないのかもと思えてしまう。

「……あの、名前を聞いても?」

 救けを無駄にして申し訳ない気持ちを抱えながら、この人が側にいてくれることで少しだけ気持ちが楽になった私は小声で尋ねかける。
 すると彼は、悪態をつくように不満げに、その名前を教えてくれる。
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