魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 やつはシルウィーに個人的な恨みがあったようだが、彼女が誰かを害するようなことをするとは考えにくい。となると、なんらかの誤解か……もしくは。

(これ以上は判断材料に乏しすぎて可能性が絞り切れねーか……)

 俺はそこで考えを止め、また元通り仕事へと取り掛かる。ペンを掴もうとやった視線に自然と入ったのは、その受けにしてある紫水晶のペンスタンド。ルシドに贈る餞別を街で選んだ時に、シルウィーが折を見てプレゼントしてくれたものだ。

 それそのものの価値よりも……彼女が気に掛けてくれているという事実と、渡す時に見せた一生懸命な表情が、これを大切にしようと思わせてくれる。俺にとっては、親父から譲り受けた勲章や、テレサが毎年の誕生日に贈ってくれる心の籠った品々と同等に価値のあるものだ。これからも大事に扱ってゆきたい。

(さあ、とっとと仕事を片付けちまうか。あいつとの時間を作るためにも……)

 気持ちが乗った俺が張り切って書類に手を付け始めると、クラウスもそれ以上話しかけてくることはなく、しばらくはペンが紙を擦る音だけが延々と響く。だが、つい数日前までろくに手が着かなかった仕事も、今はすこぶる快調だ。

 そしてそろそろ日光が、しっかりと真上から大地を照らし始めた頃。
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