魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 彼は、自ら椅子を引き倒し、地面を這って私ににじり寄ろうとする。幸い、それは兵士たちが取り押さえたことで私に及ぶことはなかったものの――彼の瞳からずっと消えない狂気の中に、大事なものを失うまいとする強い意志を感じた私は、つい声を上げた。

「あの……クラウスさん。少しだけ彼と話をさせてください」
「シルウィー様、それはねぇ……」

 当然ダメ出しをしようとした彼だが……私が真剣な目で見つめると、やがて弱ったようにこめかみを掻き、渋々だが頷いてくれる。

「はぁ……そういう真摯な女性の目には弱いんですよね。閣下にもあなたのお願いはなるべく叶えるよう言われていますし……いいでしょう。ただし、我々がこれ以上は無理だと判断したら止めますから」
「ありがとうございます……!」

 私は感謝を告げると、早速地面でじたばたもがく赤髪の青年――ラルフさんに近づいてしゃがみこんだ。

「あの……聞かせてください。どうして私なんかを手にかけようと? 私、一度もあなたとはお会いしたことがない……ですよね?」
「ああ? んなこと知るか! 俺はただ、お前を殺せと命じられただけだ! そうしねーと……」

 その凶暴な瞳に思わず距離を取ろうとしたが、なんとか恐怖を押し殺して留まる。普通、彼のような恵まれた環境にいる人が、自分の手で誰かを殺そうとするなど、おかしいと思ったからだ。
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