魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そこからは無我夢中で、額の痛みも忘れて、わけがわからないまま足を動かしとにかくこの場から離れようとした。そりゃあ結婚する以上いずれは……なんだろうけど――。

 いくらお金で買われた身だからって、一度や二度会っただけの人と即座に関係を持つなんて、恥ずかしいとかそういう問題じゃない!
 誰の姿も見当たらないお城の中なので、遠慮することなく私は今の想いを叫んだ。

「そんなの…………絶対に無理ぃっ!!!!!」



 ボースウィン城でシルウィーがそんな恥ずかしい思いをぶちまけていた頃、王都では……。

「君のもとを離れるのは残念だが、仕事が立て込んでいてな。今日のところは帰らせてもらうよ」
「あら……寂しいわ。次会う時は、目覚めるまで一緒にいてくださいませね」

 胸元から腕を抜いた皇太子ディオニヒトを、公爵令嬢でもあり精霊教会の巫女でもあるヴェロニカが、名残り惜しそうに見送っていた。

 神聖なる精霊教会の神殿内にそぐわない色っぽい表情で皇太子の背中を見送ると、彼女はすっと表情を消し蝋燭のわずかな灯りが照らす自室の中に戻る。
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