魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そして、くすくす笑いを徐々に大きくしていった。

「ふ、ふふふふ……ああも簡単に言いなりになってくれるなんて、男というものは本当に可愛らしく、愚かだわ。この様子なら、私の邪魔をするものはもう、いなさそうね」

 その後も、おかしくてたまらないというようにヴェロニカは身体を折って笑う。皇太子とのお遊びで乱れていた装いを整え、化粧を直すと、彼女は鏡の前ですぐに巫女としての姿を取り戻した。

 ヴェロニカにもやることがある。いくら教会の頂点に位置するとはいえ、みっともない姿を晒して部下たちの信用を損なうわけにはいかないのだ――少なくとも、今はまだ。

「本当にこの国のやつらはぼんくらばかり。足元でどんなことになっているか……もう少しでこの国が滅びつつあることに気付きもしない」

 ヴェロニカは鏡の前から立ち上がると、丸テーブルの上に腰を掛けてその上に敷いてあった地図を撫でる。

 シルフィーが、魔力を完全に失ったことを皇太子に伝えたのは彼女だ。そうすることで彼女と皇太子が結ばれ、この国を滅ぼす計画に新しい障害が発生するわずかな可能性をも排除した。

 それほどまでに、ヴェロニカはマルグリットの血筋を疎んじている。
 だが、あの様子ではそこまでする必要もなかったかもしれない。
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