魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 その身を憎しみの刃と変えたあの兄の切っ先は、果たしてシルウィーに届いただろうか……そろそろ、確認しておく頃合いか。
 想い耽っていた彼女の視界が、突然ぐらりと揺れる。

「――くくくくく、スレイバートも、シルウィーも、そして父上も……私を阻む者はすべてこの手で退けてやる。ヴェロニカ、君もそれが正しいと思うだろう?」

 いつの間にか、狂笑は止んでおり、ヴェロニカは皇太子に組み伏せられていた。当然、この男の世迷言などろくに聞いていない。だが彼女は、うっすらとした笑みを湛えて答えた。

「すべては、次期皇帝たるディオニヒト様の御心のままに。天意に叛く彼らには、然るべき罰を下すべきです。そのための方法をこれからふたりで考えてゆきましょうね……。シルウィーめを捕える算段は、どうか私にお任せくださいませんか?」
「ふん……気になっているのか? 確かにあやつの隠し持っていた力は貴重なものだからな。いいだろう……婚約者として、君には私を支える働きを期待しよう。無論、今ここでも」
「あっ……」

 滾る激情を押し付けるかのようにしつこく胸元に顔を埋める皇太子を受け入れながらも、ヴェロニカの頭の中は冷たく研ぎ澄まされていった。
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