魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 動揺したエルハルトさんの肩をがしりと掴んだのは、その父上、ルーファウス様だったという。

『――エルハルト。お前はリュドベルク領騎士団の第二、第三部隊を率いて城内の人間を避難させ、この地をただちに離れるのだ』
『そ――!? そんなわけには参りません! 父上こそ、私に任せてここは退避を! 我らが誇る勇猛なる騎士団の力があれば、この程度の騒ぎなどたちどころに鎮めて見せます!』

 しかし、エルハルトさんのそんな言葉にもルーファウス様はきっぱりと首を振った。

 彼の目には、この出来事がただでは済まないという確信と、覚悟のようなものがあった。

『領主としてはそうすべきなのかもしれぬな……。しかし、私とて、そう何度も我が子を領地のために犠牲に出来るほど、心は強くない。ラルフの行方も知れなくなった。カヤの命を助けられぬ上、このままお前まで失うことになっては、私は耐えられそうにない。どうか……今回だけは我儘を聞いてくれ』
『父上……』

 エルハルトさんはそこで彼の父親としての顔を久しぶりに見たそうだ。
 時には血が通っていないようにも見えるほど、私的な部分を見せない頑なな人間だったが、その時の言葉には人としての熱が籠められていた。
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