魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 純粋に首を傾げて問うた彼女に、怒られずにほっとしながらも私は答えた。

「……母のことなんですけど、私を生んだことで命を落としてしまって。それで私、母がどんな人だったのかを全然知らないんです。今でも、生きていてくれたら単なる知識とかじゃなくて、すごく大切なものを伝えてくれたんじゃないだろうかって思うと同時に……最近色んな人の話に母が出て来て。どんなこと考えてたのか知りたいなって感じることが増えて……だから、かもしれません」

 だからの中身は、ずいぶんとぼんやりとしたまとまりのないものだったけれど。

 でも、エルマ様はそんな私の思いをなんとなく汲み取ってくれたようだ。すっと背筋を伸ばし、真面目な表情で話してくれた。

「恥ずかしい話よ……。あたくしは、アルフリードのことが本当に、死にそうなくらい好きだった。一目会っただけで、城に押しかけて結婚を乞うなんて、女として最低にはしたないことをしてしまうくらいには。愛だの恋だの、生温いって思っちゃうくらいに、彼のことを欲していたの。でもね……」

 当時を思い出しているのか、伏せがちな琥珀色の瞳が悲しげに曇る。

「あの人の一番は、もうすでに心の中にいたの。あの人がスレイバートに向ける目や、時折……ある方角を一心に見つめる時の寂しげな瞳の中に、あたしはそれを思い知らされた。どこの誰かも知らないスレイバートの母親の存在が、あの人の心の奥底にはっきりと息づいている。そしてそれは誰にも侵せない……あたくしはそれが許せなかったの」
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