魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そのままスレイバート様は私の腕をひっつかむと、半ばまで霜に覆われているたラルフさんを無視し、凍り付いた南側の壁の一か所をどかんと蹴り抜いた。

 そして恐る恐る中を覗き込む私を連れ……何事もなかったかのように城内に入り込んでいく。
 そこでようやく氷結の被害から脱出したラルフさんが、スレイバート様の背中を非難で呼び止めた。

「ちょっと待てや! 今の、オレじゃなかったら凍え死んでただろうが!」

 ぎりぎりで火属性魔法の防御結界を展開していたのだろう。髪の毛を溶けた氷でびしゃびしゃにしたラルフさんが詰め寄ったが、スレイバート様はすげなく吐き捨てた。

「無断で突っ込みやがったてめーがどう見ても悪いだろ。命を助けてもらっただけありがたく思いやがれ。ふん……さすがに中まではあのデカぶつも襲ってこねーか」

 彼の言うように、頭上を見上げてみても覆いとなっている蔦の内側部分に動きは見られない。この場所は本城と城壁の間の隙間のようだが、しかし空は雲はおろか飛ぶ鳥の一羽もおらず、視界を奪う気持ちの悪い靄が、毒霧の中に突っ込んだような気分にさせる。

 この様子では、多少瘴気を吸ったところですぐに復活してしまうだろう。私は瘴気吸収の範囲をなるべく狭めて、身の回り数歩分にだけ清浄な空間を作り出した。
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